ある村にムツタという名の青年がいた。彼は平凡な鍛冶屋の助手だった。 手際が悪く職人にはなれなかったが、楽天的な性格だったこともあり、自分に仕事があって幸せな家庭を築いている事だけでも神に感謝の気持ちを忘れない、そんな素朴な性格の持ち主だ。 ある日、市場へ赴いたムツタは、商人達が色々な聖物を売っているのを目にした。 ムツタの財布には食料を買うお金しか入ってなかったが、見るのはタダだと思い少しだけ見て行こうと彼らに近づいた。 聖物を売っている商人は二人で見た目の年の差は父と息子にも見えたが、よく見てみると似ている部分は全くなく、むしろ息子に見える商人が老人の商人を働かせている感じだった。 彼らが売っている聖物は30年生きたムツタにも初めて見る物ばかりで、どれも今まで見た事のない鉱物で作られており妙な光を放っていた。 ムツタはその妙な光に惹かれてしまい、食料を買う為のお金をすべて使い腕輪を一個購入した。 その日の夜、両手いっぱいになるはずだった食料の代わりに腕輪を持って帰ってきたムツタに対し嫁はしかめっ面だったが、ムツタは全く気にせず自分が大事にしている飾り棚の中央にその腕輪を入れ、満足気な表情で眺めていた。 腕輪を買うためにその月の食料費をすべて使ってしまったが、腕輪にはそれ以上の価値があると固く信じていた。 ~ 数日後、ムツタの人生を大きく変える事件が起きる。 ムツタが鍛冶に使う鉄を調達しに行っている間に、
不安定な腕輪に中途半端に封印されていた魔神の封印が解け、 ムツタの家族は全員魔神の生贄となってしまった。 さらに、魔神によって生贄となったのはムツタの家族だけではなく、村人全てが犠牲となり一晩で村は全ての住人を失ってしまった。ムツタが持ち帰ったその腕輪は封印された魔神の腕輪(ナスルン)だったのだ。 しっかりと制御できる人でないと、魔神は自分で封印を解き暴走してしまう恐ろしい物だった。 ムツタが市場で見た聖物を売っている若い商人は魔神の力を操るために研究していた者で、一般的なナスルンに満足出来ず無限に魔族を操るための研究していたのだ。 彼の実験は失敗に終わったがその実験のために多くの人々の命が犠牲となった。 村に戻ったムツタは家族を無くした悲しみに絶叫し、魔神達に怒りの矛先を向けた。しかし、すぐに自分の力の未熟さに挫折してしまう。 ムツタは家族と村人の葬式を行い、神に祈った。 二度とこの様な惨劇は起きないよう、自分に魔神を退治できる力を下さいと。 もう住む家も、家族も、隣人さえもいない彼は、誰もいない村の神殿に行き毎日欠かさず祈りを捧げ、誰もいなくなってしまった村の鍛冶屋で槌を打って歳月を過ごした。誰もいない村で彼はひたすらに槌を振り続けた。 歳月が立ち、ムツタの髪が白くなった頃、ムツタの祈りと執念が一つの大きな力を生み出した。 ムツタは魔神ではなく天神の力を借りられる「アマルン」腕輪を作り出した。 もうお爺さんになってしまった彼が直接悪を滅す事は出来ないが、「アマルン」の腕輪は数多くの人間たちが悪に向かって戦うのに大きな力となるだろう。 長い間切実に祈った彼の金床と槌、そして彼の精神に神の力が宿り作り出した傑作だった。 「アマルン」は無限に神の力を使用できるものではないが、人々が強く邪悪な敵と戦う間は彼らを強くする。 「アマルン」は「ナスルン」と共に人間に強力な力をもたらすが、使用者がその力に溺れ欲をだすと自らその力を回収し消滅してしまう。 こうして、ムツタによって「ナスルン」と同等だが力の根源が違う「アマルン」が誕生した。